搭乗手続きに向かっていた一人の男。彼の背後から歩み寄った幼気な印象を与える女性の手が、素早く顔面を覆う。ほんの数秒の接触。男は違和感を覚え、空港の案内所に助けを求めた。「顔に何か薬品を塗られた」。しかし、クリニックへ移送される途中で意識を失い、心停止に至った。犠牲となったのは、北朝鮮の先代指導者・金正日の長男である金正男だった。
事件直後、現場の混乱を収集し、化学兵器の痕跡を特定したのがマレーシア国家警察である。彼らの迅速な科学捜査と監視カメラの分析により、目撃者の目には「ただの悪ふざけ」に見えた動きが、恐るべき殺人工作であった事実が浮き彫りとなった。