日本における近隣の音をめぐる凄惨な犯罪を語る上で避けて通れないのが、昭和49年に神奈川県平塚市で起きた「ピアノ騒音殺人事件」である。集合住宅の普及とともに顕在化したこの事件は、階下が演奏するピアノの音をめぐって男が母子3人を刺殺するという、当時の日本社会に凄まじい衝撃を与えた出来事だった。
この事件は後に最高裁判所まで争われ、日本の集合住宅における遮音基準や近隣関係の法的あり方に一石を投じることとなった。当時の司法判断や社会の動揺は、高度経済成長の中で「自宅=聖域」という意識が強まった時代背景を反映している。半世紀が経過した現在もなお、同様の構図を持つ騒音殺人事件が後を絶たない事実は、日本の住宅環境とコミュニティの弱体化が抱える根深い病理を証明している。