日本中を恐怖に陥れた根源は、16世紀のフランスの医師・占星術師ミシェル・ノストラダムスが遺した『百詩篇(予言集)』第10巻72番の四行詩です。この詩は、ノストラダムスの膨大な著作の中で明確な年と月が記された極めて稀な詩として知られています。
当時のフランス語原文と現代の学術的な直訳を比較すると、センセーショナルに広まったイメージとの大きな乖離が浮かび上がります。
【原文】
L'an mil neuf cens nonante neuf sept mois,
Du ciel viendra un grand Roy d'effrayeur:
Resusciter le grand Roy d'Angolmois,
Avant apres Mars regner par bon heur.
【学術的な現代日本語訳】
1999年、7の月
空から恐怖(畏怖)の大王が来るだろう
アンゴルモワの大王を蘇らせるために
その前後は火星(あるいは軍神マルス)が幸福の名のもとに支配するだろう
当時ベストセラーとなった解釈本では、「恐怖の大王=核ミサイル、超巨大隕石、あるいは未知のウイルス」「アンゴルモア=モンゴル帝国の復活、人類を滅亡させる破壊者」と訳され、1999年7月に地球そのものが破滅する決定打として喧伝されました。
しかし、近年の歴史言語学的な研究では全く異なる真相が定説となっています。「アンゴルモワ(Angolmois)」とは、ノストラダムスが仕えていたフランス国王フランソワ1世の出身地であるアングーモワ地方(Angoumois)の古語表記であり、正統な王家の血統を讃えた政治的隠喩に過ぎません。また、「恐怖の大王(Roy d'effrayeur)」についても、破滅をもたらす怪物ではなく、畏敬を集める偉大な君主、あるいは当時恐れられていた日食などの天文現象を指していたというのが文献学上の真実です。