やなせさんが戦場で直面した極限の「飢え」と、理不尽に散った「弟の死」は、のちの創作活動における最大の原動力となりました。戦時中、正義を掲げて戦っていたはずの国家が敗戦とともに価値観を一変させた光景を目の当たりにしたやなせさんは、「逆転しない正義とは何か」を徹底的に考え抜きます。
その思索の果てに行き着いた答えが、「ひもじい思いをしている人に、自分の顔をちぎって食べさせる」というアンパンマンの献身でした。カッコいい武器で敵を倒すのではなく、自らの身を削って他者を救う自己犠牲の姿には、戦場で散っていった弟への尽きせぬ鎮魂の祈りが込められています。
アンパンマンのマーチにある「なんのために生まれて なにをして生きるのか」というあまりにも有名な問いかけは、若くして命を奪われた弟・千尋さんの分まで誠実に生き抜くという、やなせさん自身の決意表明でもあったのです。