植村直己が残した著作や、文藝春秋から刊行された一連のドキュメンタリー書籍は、日本のノンフィクション・伝記文学において今なお特別な輝きを放っている。また、NHKアーカイブスに保管されている当時の貴重なインタビュー映像や報道記録には、無事の帰還を祈る公子さんの張りのある声と、毅然とした表情が刻まれている。
彼の死後、数多くのライターや研究者が二人の軌跡を追った。冒険家としての偉業だけでなく、一人の人間としての弱さや愛おしさを描き切るには、妻・公子という存在の語りが不可欠だった。彼女の口から語られる言葉の一つひとつが、偉大な冒険家の伝記に血の通った温もりを与え続けている。