映画のクライマックス、直子の死を経て激しい喪失感に打ちのめされたワタナベは、雑踏の中の公衆電話から緑に電話をかけます。「僕は今どこにいるのだろう?」という独白とともにカメラが引いていく結末は、多くの観客に深い余韻と疑問を残しました。
このラストシーンが意味するのは、「死の世界」から「生の現実」への痛切な帰還です。親友キズキと直子という、過去の死者たちに心を囚われ続けていたワタナベは、直子の死を身体で受け止め切ったことで、初めて自らが生きる現実世界へと目を向けます。
しかし、生の世界へと戻った彼が手にしたのは、手放しの幸福ではなく「自分が今どこに立っているのかすら見失うほどの圧倒的な孤独」でした。緑という生の象徴へすがりつきながらも、死者の記憶を背負って生きていかなければならない人間の業を描いたからこそ、あの結末は観る者の胸に深く突き刺さるのです。