漢字の原点を辿ると、およそ3300年前の中国・殷(商)王朝時代に刻まれた甲骨文字の歴史へと行き着きます。亀の甲羅や牛の肩甲骨に鋭利な刃物で刻まれたこれらの文字は、神意を問う占トの結果を記録するための神聖な記号でした。当時の人々は、空に輝く「日(太陽)」や「月」、険しくそびえる「山」、波打つ「川」、羽を休める「鳥」など、自然界の輪郭を素朴なスケッチのように写し取りました。これが象形文字の由来であり、具象的な絵画が極限まで削ぎ落とされて文字へと昇華した瞬間です。
時代が下るにつれて、筆と墨の発明、そして木簡や竹簡への筆記という物理的制約から、文字は丸みを帯びた絵のような線から直線的な点画へと抽象化されていきました。篆書(てんしょ)から隷書(れいしょ)、楷書へと至る書体の変遷は、いわば「視覚的な絵画性を削ぎ落とし、情報伝達の効率を高める歴史」でもありました。
しかし、文字が高度に記号化された現代において、私たちは再び文字の中に「絵」を見出す試みを熱心に行っています。文字の線画を植物や動物、建物に見立てる現代の漢字アートは、一見すると最新のグラフィック表現に見えますが、本質的には文字が誕生した原初のビジュアル・コミュニケーションへの先祖返りとも言える知的な営みなのです。