山崎豊子の傑作小説『白い巨塔』は、これまで何度も映像化されてきた。しかし、医学界の権力闘争に身を投げ投じる主人公・財前五郎の姿として、真っ先に人々の脳裏に浮かぶのは今なお田宮二郎の表情であることに異論を挟む者は少ないだろう。
彼が演じた財前は、単なる冷血漢でも、権力に目がくらんだ悪人でもなかった。上へ登り詰めようとする抑えきれない野望の裏側に、常に崩壊と背中合わせの脆さと孤独を漂わせていた。手術室で見せる神がかった手さばき、教授選を巡るドロドロとした駆け引きで見せる不敵な笑み。演技を超えた凄みは、自らの命を削りながらカメラの前に立っていた田宮自身の極限状態と深く共鳴していたからにほかならない。