久礼大正町市場には、全国の食通がこぞって押し寄せる「幻の味覚」が存在する。毎年8月中旬から9月上旬のわずか数週間しか出回らない「メジカの新子(マルソウダガツオの幼魚)」だ。この魚は痛みが非常に早く、水揚げされてからわずか数時間で味が落ちてしまう。そのため、久礼の港の目と鼻の先にあるこの市場でしか、刺身で食べることはほぼ不可能とされている。
新子の刺身には、地元特産の柑橘「仏手柑(ブシュカン)」の果汁を皮ごと搾り、たっぷりと回しかけて食べるのが久礼流だ。モチモチとした独特の食感と、青魚特有の強い旨味、そしてブシュカンの爽やかな酸味が口の中で絶妙に溶け合う。この味を求めて、限定シーズンには開場前から長蛇の列ができる。まさに、この土地とこの時間でしか成立しない究極のローカルフードだ。