2001年に公開され、世界の映画史に金字塔を打ち立てた『千と千尋の神隠し』。物語の中盤、カオナシや腐れ神との遭遇を経てたくましく成長する千尋は、ハクの体内から吐き出された黒い虫を思わず足で踏み潰してしまう。その直後、異界の湯屋で働くボイラー室の番人・釜爺が「えんがちょ切った!」と叫び、千尋に人差し指同士を交差させて両手で「切る」動きを指図する。あのユーモラスでありながらどこか切迫したシーンだ。
スタジオジブリが制作した本作において、あの所作は単なるノスタルジックなギャグ表現にとどまらない。劇中で描かれたのは、単なる子供の言葉遊びを超えた、目に見えない不浄を取り除く日常的な修祓(しゅばつ)のプロセスそのものだった。なぜ映画の重要な転換点であの古風な所作が選ばれたのか。そこにはスクリーンの映像美を通じて民俗的記憶を喚起させようとする緻密な計算が存在する。