物語の導入部から読者・視聴者の息を呑ませる巧みな構成こそ、本作最大の魅力です。ここでは、複雑に絡み合う『宇宙を駆けるよだか』のあらすじと、運命が反転する事件の引き金となった背景を紐解きます。
主人公の小日向あゆみは、容姿端麗で誰からも愛される天真爛漫な高校生。大好きな幼馴染の水本公史(通称:しろちゃん)から告白され、恋人同士として初めてのデートに向かう幸福の絶頂にいました。しかし待ち合わせ場所の直前、クラスメイトの海根然子から一本の電話が入ります。ビルの屋上に佇む然子は「私を見ていて」と告げ、あゆみの見守る目前で投身自殺を図ります。意識を失ったあゆみが病院のベッドで目覚めたとき、鏡に映っていたのは、醜悪と蔑まれ強い自虐と劣等感に苛まれていた海根然子の肥満体の姿でした。
なぜ二人は入れ替わってしまったのか。その入れ替わりの理由は、オカルト的な偶然ではなく、然子が周到に仕掛けた計画的犯行でした。かつて同様の体験をしたとされるアパートの住人・右近(うこん)さんの存在などを通じ、「赤月(あかつき)が出る夜に、入れ替わりたいターゲットが直下で見ている目の前で飛び降り自殺を図る」という絶対的な条件が判明します。容姿に恵まれず、母親からのネグレクトにも似た酷薄な接し方に心を歪ませていた然子は、すべてを持っているあゆみの人生を強奪するため、命を賭してこの禁忌の儀式を決行したのです。
誰もが然子の姿をしたあゆみの正体を信じない絶望の底で、唯一その微細な仕草や表情から「中身があゆみであること」を直感で見抜いたのが、クラスの人気者であるもう一人の幼馴染・火賀俊平でした。火賀の無償の愛と献身に支えられ、あゆみは過酷な現実へと立ち向かいます。
物語が大きく動く最終回の結末では、あゆみの姿を手に入れながらもしろちゃんから冷遇され、周囲の猜疑心に追い詰められた然子が、さらなる破滅(しろちゃんとあゆみの体で再度の心中)を謀ります。しかし、しろちゃんが然子に従属していたのは、彼女を操り「元の身体に戻すためのルールと手順」を解明するための偽装工作でした。命を顧みず然子の心を受け止めようとする火賀の熱情、そして自らの内面の醜さと向き合い和解を選んだあゆみたちの決意が重なり、再び夜空に浮かぶ赤月の下、命がけの跳躍によって一人も欠けることなく本来の体へと戻る結末を迎えました。