この店の歴史を語る上で、創業者の存在を外すことはできない。1949年、銀座の地に店を構えたのは、インド独立運動家として知られるA.M.ナイル(アイヤッパン・ピライ・マドハバン・ナイル)氏だ。
1928年に留学生として来日したナイル氏は、ラス・ビハリー・ボースらとともにインドの独立運動に身を投じ、太平洋戦争中も日本を拠点に激動の時代を駆け抜けた。戦後、彼が銀座にレストランを開いた理由は、単なる商売のためではない。「本物のインドの味と文化を日本人に知ってほしい」「食を通じて両国の親善を図りたい」という強い志があった。
当時の日本において、カレーといえばスパイス感の少ない「小麦粉でとろみをつけた黄色い洋食」が主流だった。そこに本場のスパイスを効かせた本格的な料理を持ち込んだのだから、当時の人々に与えた衝撃は想像に難くない。ナイルレストランの開店は、日本のカレー文化における真の「開国」だったと言える。