油屋を支配する絶対的な権力者・湯婆婆が、唯一心を許し、理性を失うほど甘やかすのが坊である。部屋いっぱいに積み上げられた玩具や「坊」と大きく刺繍された赤い前掛けは、湯婆婆の偏愛と支配欲の過剰な表れにほかならない。
湯婆婆は外の世界の脅威を極剰に強調することで、坊を外界から遮断し、自らのコントロール下に置き続けた。「お外は病気になる」という言葉は、子供を守りたい母親の愛情であると同時に、子供の自立を恐れる親の自己保全でもあった。
しかし物語の終盤、旅を終えて逞しく成長した坊は、自らの足で立ち上がり、湯婆婆に向かって「千をいじめたら嫌いになっちゃうぞ」と明確に意思を表示する。過保護な愛の檻を破り、親に対して対等な一人の人間として「拒絶と要求」を突きつけるこのシーンは、歪な親子の葛藤が昇華された屈指の名場面だ。