多くの人が「腰の骨や筋肉のトラブル」と悪性腫瘍を結びつけて考えられない最大の原因は、痛みの発生機序(メカニズム)の違いにあります。一般的な筋肉疲労や椎間板ヘルニア、変形性脊椎症による腰痛は、特定の動作(立ち上がる、前屈みになるなど)によって物理的な負荷がかかった際に増悪し、横になって安静を保てば緩和するのが通例です。
しかし、がん性病変による腰痛の背後にはまったく異なる2つの病態が存在します。1つはがん骨転移腰痛の真相ともいえる骨の破壊と骨膜刺激です。骨には感覚神経が豊富に分布する骨膜があり、血行性に運ばれたがん細胞が骨髄内で急速に増殖すると、骨の内圧が上昇して骨膜を内部から強烈に刺激します。さらに骨溶解性のサイトカインが分泌されて骨皮質が融解し、骨そのものの強度が破綻することで、体を動かしていなくても耐え難い深部痛が生じます。
もう1つが、内臓悪性腫瘍腰痛見分け方の核心である「関連痛」と「後腹膜腔への浸潤」です。後腹膜に位置する膵臓や腎臓、大動脈周囲のリンパ節などに腫瘍が生じた場合、内臓の知覚神経(交感神経求心路)を伝わった痛みの信号が脊髄後角で体性感覚神経と交差し、脳が「腰や背中が痛む」と錯覚してしまいます。腫瘍が直接的に後腹膜の腹腔神経叢を巻き込み始めると、物理的な姿勢変化とは無関係に鈍重で激烈な痛みが持続することになります。この生理学的なズレこそが、患者本人の「ただの腰痛」という思い込みを生み出す決定的な理由です。