極貧の極致にあった極初期の貸本マンガ家時代から、水木を陰で支え続けたのが妻の武良布枝だった。戦後の混乱期、片腕を失った夫の偏執的なまでの描画への情熱と、時折見せる戦争のフラッシュバックに寄り添い続けた彼女の存在なくして、後年の名作群の誕生はあり得なかった。自伝『ゲゲゲの女房』でも明かされた通り、過酷な体験を静かに抱え込みながらペンを握り続ける夫の姿を、彼女は最も近くで見守り続けてきた。
水木プロダクションは、彼が世を去った後もその膨大な原稿や未公開スケッチ、戦地から持ち帰った貴重なメモ類の保存と管理を厳格に続けている。水木が現地でスケッチした南太平洋の景色や兵士たちの肉筆画は、戦争の悲惨さを今に伝える貴重な文化的遺産だ。プロダクションの真摯な活動によって、彼の肉声は風化することなく、平和を訴える「静かなる遺言」として後世に語り継がれている。