身が縮んでパサついたり、味が中まで染み込まずにぼやけたりする失敗は、煮汁の割合と火加減のコントロールで完全に防ぐことができる。職人が門外不出としてきた煮汁の黄金比は「酒4:水2:醤油2:みりん2:砂糖1」だ。メバルの皮目に十字の飾り包丁を浅く入れ、タレの対流と熱の通り道を確保しておく。
調理の成否を分ける最大の分水嶺は、魚を投入するタイミングにある。冷たい鍋に魚と調味料を入れて火にかけるのは厳禁だ。まず酒、水、砂糖、みりんを鍋に合わせて強火で沸騰させ、アルコールを飛ばした熱々の煮汁の中へメバルを静かに滑り込ませる。熱衝撃によって表面のタンパク質が一瞬で固まり、内部の瑞々しいエキスが閉じ込められるのだ。
落とし蓋を乗せ、煮汁が蓋を押し上げる中強火をキープしながら7〜8分。仕上げの2分前に醤油を回し入れ、スプーンで煮汁をすくって皮目に幾度も照りをまとわせる。火を止める直前に刻みショウガを散らせば、箸を入れた瞬間に湯気とともにホロリと崩れる極上の煮付けが完成する。