「魚の骨が苦手な子どもでも、驚くほどパクパク食べた」――料理旅館や割烹のレビューでよく目にするこの現象には、加熱と化学反応を利用した明確な理由が存在します。いわし南蛮漬け骨まで柔らかく仕上げるためのアプローチは、単に長時間煮込むことではありません。ポイントは「二段階の揚げ温度」と「酸による組織分解」にあります。
魚の骨(主成分はリン酸カルシウムとコラーゲン)を違和感なく噛み砕ける状態にするには、まず骨の内部に含まれる水分を徹底的に蒸発させ、スポンジ状の多孔質構造に変える必要があります。そのためには、1回目に160℃前後の低温油で4〜5分間じっくり揚げる工程が欠かせません。中火以下の油でじわじわと揚げることで、身を焦がさずに骨の芯まで熱を行き渡らせ、水分を完全に追い出します。
一度油から引き上げて2分ほど余熱を通した後、2回目は180℃前後の高温油で約1分間カラッと揚げる「二度揚げ」を行います。これにより、表面の衣が香ばしくクリスピーに固まり、内部の骨はサクサクのクッキーのような状態へ変化します。さらに、揚げた直後に酸濃度の高い南蛮酢へ漬け込むことで、酢に含まれる酢酸がカルシウムの結合を緩め、時間の経過とともに骨が劇的に柔らかくなります。
また、使用する魚のサイズに応じたいわしの下処理方法を適切に選ぶことも重要です。体長7〜10cm前後の豆いわし(小いわし)であれば、エラと内臓を指で押し出すだけで骨ごと調理可能です。一方、15cmを超える中羽・大羽いわしの場合は、手開きにして背骨を取り除くか、背骨を残すなら低温揚げの時間を1.5倍に延ばすといった調整が、プロの現場では徹底されています。