焦げと発がん性を巡る議論を整理する上で不可欠なのが、「焦げる対象となる食材」の違いです。私たちが口にする焦げには、大きく分けて動物性タンパク質由来の焦げと、炭水化物・植物性食材由来の焦げの2種類が存在します。
かつて「焼き魚の焦げ=がん」という図式が広まった発端は、1970年代に国立がんセンター(現・国立がん研究センター)の研究グループが、魚や肉の焦げ部分からヘテロサイクリックアミン(HCAs)という強力な変異原性(遺伝子を傷つける性質)物質を発見した実験にあります。しかし、この実験でマウスに投与された量は、人間の体重に換算すると「毎日数万匹分の焼き魚の焦げを一生涯食べ続ける」に匹敵する極端な設定でした。通常の食生活において摂取する程度の微量であれば、生体が本来備えているDNA修復機能や肝臓の解毒代謝によって無毒化されます。
一方、現代の食品安全行政において注視されているのが、ポテトチップスやトースト、炒め玉ねぎなどに含まれるアクリルアミドです。アクリルアミドは、アスパラギン(アミノ酸の一種)と還元糖(ブドウ糖や果糖など)が120度以上の高温で加熱される「メイラード反応」の過程で副生します。国際がん研究機関(IARC)は、アクリルアミドをグループ2A(人に対しておそらく発がん性がある物質)に分類しており、日常的な総摂取量の削減が推奨されています。