一般的に「野球の発祥国はアメリカ」と認識されていますが、その成り立ちには長年信じられてきた大きなフィクションが存在します。長らくアメリカ国内では、ニューヨーク州の風光明媚な村クーパーズタウンがベースボール誕生の地と語られてきました。南北戦争の英雄であるアブナー・ダブルデイ将軍が、1839年にクーパーズタウンの砂地にダイヤモンドを描いてルールを考案したという伝説です。
しかし、野球史研究の進展によって、この「ダブルデイ説」は事実無根であることが判明しています。1900年代初頭、野球用品メーカー創業者アルバート・スポルディング率いる調査委員会(ミルズ委員会)が、「アメリカ独自の国技である」と内外に誇示するために、意図的に仕立て上げた物語だったのです。
学術的に裏付けられているベースボール起源は、イギリスの伝統的な球技「タウンボール」や「ラウンダーズ(Rounders)」、さらにはクリケットの派生形にあります。イギリスからアメリカ東海岸へ渡った移民たちによって遊ばれていた草野球を、現在のような競技へと進化させた決定的な人物は、ボランティア消防団員であったアレクサンダー・カートライトでした。
カートライトは1845年、ニューヨークで「ニッカーボッカー・ベースボール・クラブ」を結成。走者にボールを直接ぶつけてアウトにする危険なルール(ソーキング)を廃止し、ベースを90フィート(約27.4メートル)の間隔で配置するダイヤモンド型のフィールド、1チーム9人制、3アウト交替、9イニング制といった近代ルールの根幹を策定しました。アメリカにおける公式記録上、最初の近代ベースボール試合が行われたのは、ニューヨーク近郊ニュージャージー州ホーボーケンのエリシアン・フィールズ(1846年6月19日)であり、ここが実質的な世界野球発祥の原点と位置づけられています。