加藤一二三の凄みは、対局における並外れた集中力と、それに付随する数々の伝説的なエピソードにもあります。単なるコミカルな逸話として語られがちですが、その根底には「1秒たりとも妥協せず、盤上に全生命を捧げる」という凄まじい勝負師の哲学が存在していました。
対局場を揺るがした珠玉のエピソード
- 対局中の板チョコ爆食い:脳の糖分補給のため、対局中に数十枚の板チョコを平らげる。対局相手が音に驚くほどのスピードで銀紙を剥き、口に運ぶ姿は名物となった。
- クーラーの風向きと室温戦争:寒がりの加藤と暑がりの米長邦雄永世棋聖との対局で、クーラーのスイッチを巡って双方が点けたり消したりを繰り返した攻防。
- 滝の音を止めるよう要求:対局場の庭にある人工の滝の音が気になり、「あの滝を止めてくれ」と宿の主人に真剣に要請した逸話。
- ネクタイが極端に長い理由:ネクタイを異常に長く結ぶスタイルについて、「座ったときにネクタイの先端が畳に届くことで、重心が安定して集中力が増す」という独自の美学を持っていた。
- 得意戦法「棒銀」への絶対の誇り:「棒銀は最も破壊力があり、美しい戦法」と公言し、相手がどんなに対策を練ってこようとも正面からねじ伏せ続けた。
敬虔なカトリック信仰と洗礼名「パウロ」
加藤は30歳の時、カトリックの洗礼を受け、洗礼名「パウロ」を授かっています。勝負の世界という極度のストレスと孤独に向き合う中で、信仰は彼の精神的な揺るぎない支柱となりました。1986年には、長年の信仰生活と社会貢献が評価され、ローマ教皇ヨハネ・パウロ2世から聖シルベストロ騎士団勲章(ヴァチカン市国の最高栄誉の一つ)を受章しています。