千代の富士の引退がこれほどまでに日本社会を揺るがしたのは、彼が築き上げた実績があまりにも偉大だったからです。北海道松前郡福島町出身の秋元貢少年は、1970年の初土俵以来、軽量ゆえの度重なる肩の脱臼という致命的な逆境に苦しみ続けました。
しかし、彼は関節を筋肉で締め上げるという前代未聞の肉体改造に着手。毎日何百回もの腕立て伏せや筋力トレーニングを重ね、筋肉の鎧を身にまとったことで才能が一気に開花します。土俵上での獰猛かつ俊敏な取り口から「ウルフ」のニックネームが定着し、1981年に第58代横綱へ昇進しました。
横綱昇進後の活躍は圧倒的でした。昭和から平成にかけて打ち立てた金字塔は以下の通りです。
・幕内最高優勝:31回(歴代3位)
・通算勝利数:1045勝(達成当時歴代1位)
・本場所53連勝(昭和以降歴代3位)
・通算幕内勝利数:807勝
1989年(平成元年)には、相撲界において初となる国民栄誉賞を受賞。力士の枠を超え、日本人の不屈の闘志と美の象徴として日本中から愛された存在でした。