上杉美浩の表現の根底を探る上で、避けて通れないのが平田オリザ率いる劇団「青年団」での経験だ。日本のみならず国際的にも高く評価される現代演劇の潮流において、青年団が提唱した「静かな演劇」は、演技の概念そのものを根本から覆した。日常会話の重なり、視線の交差、沈黙の間隙にこそ人間の本質が宿る――この濃密な舞台芸術の現場で徹底的に身体性を磨き上げたことが、現在の彼の骨格を形成している。
舞台上で培われたリアリズムは、単なる自然体にとどまらない。観客の呼吸を察知し、空間の湿度すらコントロールするような緻密なコントロール力だ。劇場の板の上で鍛え抜かれたその確かな技術が、後に映像の世界へと持ち込まれたとき、既存の映画的コードとは一線を画すリアリティを生み出すこととなった。