マダニそのものによる局所の炎症以上に恐ろしいのが、マダニが媒介する病原体による全身性の感染症です。刺されてから数日から数週間の潜伏期間を経て現れる症状には、以下のような致命的なリスクを伴う疾患が含まれます。
1. ライム病(遊走性紅斑):
ボレリアと呼ばれる細菌を保有するマダニに刺されると、数日から数週間後に刺し口を中心としてリング状に赤みが同心円状に拡大する「遊走性紅斑(エリスリマ・ミグランス)」が出現します。中心部がやや退色し、外側に向かって標的(ターゲット)のように輪が広がる画像所見が特徴的です。放置すると関節炎や顔面神経麻痺などの重篤な神経症状へ進行します。
2. 重症熱性血小板減少症候群(SFTS):
SFTSウイルスを保有するマダニ(フタトゲチマダニなど)による感染症で、潜伏期間は6日〜2週間です。発熱、全身倦怠感、嘔吐や下痢といった消化器症状が主徴であり、血液検査では血小板や白血球の急激な減少が確認されます。国内での致死率は10〜30%に達し、有効な特効薬が限られている極めて危険な感染症です。
3. 日本紅斑熱:
リケッチアという病原体によって引き起こされ、2〜8日の潜伏期間ののち、高熱とともに手足の末端から全身へと広がる米粒大の赤い発疹(紅斑)が多発します。刺し口には特徴的な黒いかさぶた(刺口)が形成されます。早期に適切な抗菌薬治療を行わないと多臓器不全に至る恐れがあります。