妊婦が非妊娠時と同じ感覚でカフェインを摂取してはならない生理学的理由は、母体と胎児の双方が抱える「代謝能力の根本的な違い」にあります。これが、医学的に妊娠中に控えるべき理由の核心です。
第一に、母体の肝臓代謝能力の急激な変化が挙げられます。通常、成人の体内におけるカフェインの血中濃度半減期(体内量が半分に減るまでの時間)は約4時間です。しかし、妊娠中期から後期にかけて分泌が増加する高濃度の女性ホルモン(エストロゲンやプロゲステロン)が肝臓の代謝酵素(CYP1A2)の働きを阻害します。その結果、カフェインの半減期は最大で10〜15時間前後まで大幅に延長します。非妊娠時と同じペースで摂取すると、体内に高濃度のカフェインが長時間残留し続けることになります。
第二に、胎盤通過性と胎児の未熟性です。カフェインは低分子で脂溶性が高いため、母体と胎児を隔てる胎盤の血液関門を容易に通過します。移行したカフェインを受け取る胎児の肝臓はまだ極めて未熟であり、カフェインを代謝・分解する酵素をほとんど持っていません。母体よりも遥かに高い感受性でカフェインの覚醒作用や血管収縮作用に晒されることになります。
とりわけ懸念される妊娠初期カフェイン影響については、器官形成期における血管攣縮が流産リスクの上昇と関連しているのではないかという学説が議論されてきました。大規模な疫学調査のメタアナリシスでは、1日200mg未満の偶発的な摂取であれば自然流産率を有意に高める証拠はないとされています。しかし、安定期に入る前のデリケートな時期だからこそ、母体の体調や心拍数の急変動を防ぐ観点から、極力摂取量をセーブすることが臨床的に推奨されます。