武蔵野美術大学造形学部視覚伝達デザイン学科を卒業後、漫画家・ちばてつや賞優秀新人賞を受賞してキャリアをスタートさせた今敏は、大友克洋のアシスタントや美術設定などを経てアニメーション監督への道を切り拓きました。その緻密な作画力と演出力で世界的な名声を確立していた矢先の2010年5月、末期のすい臓がんを宣告されます。
余命半年の宣告を受けた後、監督は自身の公式ブログに「さようなら」と題した長文の手記を遺しました。家族、スタッフ、そしてファンへの感謝と無念が痛切な筆致で綴られたこの遺稿は、世界中のアニメファンに大きな衝撃を与えました。その中で監督が最も心残りの一つとして挙げたのが、当時制作中だった長編第5作『夢みる機械』でした。
人間のいなくなった未来で、電気をエネルギー源とするロボットの「リリコ」と「ロビン」が旅を続けるロードムービーとして企画されていた本作は、今監督が手がける初のファミリー・子供向けアニメーションとなる予定でした。しかし、監督の急逝後、制作母体であるマッドハウスの丸山正雄プロデューサー(当時)らは制作続行を模索したものの、「コンテや設定は残っていても、今敏という突出した個人の感性、タイミング、画面構成を代理で具現化できる演出家がアニメーション業界に存在しない」という苦渋の結論に至りました。現在、企画は正式な公開中止というよりも「永久凍結」の扱いとなっており、名実ともに幻の遺作となっています。