常陸太田市郷土資料館の最大の特徴は、展示されている収蔵品のみならず、建物そのものが一級の歴史的遺産である点にあります。「梅津会館」の通称で親しまれる本館は、昭和11年(1936年)に太田町役場として建設されました。建設資金の多くを寄附したのは、常陸太田出身で実業家として大成した梅津福次郎氏です。当時としては破格の私財投じによって実現した庁舎は、地方自治体としては異例の威容を誇りました。
昭和29年(1954年)の市制施行に伴い「常陸太田市役所本庁舎」へと引き継がれ、昭和53年(1978年)に現在の新市庁舎へ移転するまでの約40年余り、地域行政の中枢として激動の時代を見守り続けました。その後、建物の保存と活用を望む市民の声に応え、内部を用途変更して昭和55年(1980年)に常陸太田市郷土資料館として再出発。平成11年(1999年)には、その優れた意匠と技術的価値が認められ、国の登録有形文化財に登録されています。
建築工法には、当時の流行の最先端であったアール・デコ調の直線美とクラシカルな装飾が巧みに融合されています。正面玄関の車寄せに配された大振りの陶製テラコッタ(装飾陶器)や、褐色のスクラッチタイルで覆われた外壁は、見る時間や天候によって陰影を変え、重厚感と温かみを同時に漂わせています。内部に残る階段の手すりやステンドグラス風の明かり取り、格天井など、細部に宿る職人技は建築ファンを唸らせる仕上がりです。