TVアニメ版しか観たことがない人が原作を読むと、間違いなくその「温度差」に驚くことになる。72分の長編アニメが美しく抒情的なサマーメモリーとして描かれているのに対し、小説版の心理描写ははるかに鋭利で生々しい。
例えば、東京への旅行で里伽子が拓に見せる身勝手な振る舞いや、拓が心の中で抱く苛立ち。アニメでは抑えめだった拓の内面における独白が、書籍では赤裸々に綴られている。里伽子は決して都合の良い「理想のヒロイン」ではない。彼女の孤立やプライド、親の離婚に翻弄される脆さが深く掘り下げられているからこそ、終盤で見せるかすかな微笑みが読者の心に深く刺さるのだ。この人物造形の深みこそが、青春小説としての完成度を押し上げている。