石川の菓子文化を語るうえで、三百有余年の歴史を誇る老舗の存在は欠かせない。寛永年間に創業した森八が手がける「長生殿」は、日本三名菓の筆頭として茶道界でも別格の扱いを受ける。四国・徳島特産の和三盆糖と北陸の霊峰・白山山系の雪解け水が生み出す口溶けは、淡雪のように儚く、それでいて気品に満ちた余韻を残す。
ピリッとした生姜の辛みとすり蜜の上品な甘さで知られるのが、柴舟小出の代表銘菓「柴舟」だ。加賀藩の時代から伝わる伝統的な意匠は、川を行き交う柴積みの舟を模したもの。パリッとした心地よい歯ざわりの後に広がる生姜の刺激は、甘いものが得意ではない層への贈り物としても重宝されている。
白山麓の宿場町・松任で二百年以上の歴史を紡ぐ圓八の「あんころ餅」も見逃せない。竹皮に包まれた一口大の餅は、滑らかなこし餡の風味と竹皮の清々しい香りが一体となり、素朴でありながら唯一無二の存在感を放つ。加賀の職人たちが代々受け継いできた技術と誇りが、ひと包みのなかに凝縮されている。