1980年代初頭の冷戦空気を色濃くまとった『海底鬼岩城』の舞台設定は、2026年の現代において不気味なほどのリアリティをもって迫ってくる。太平洋の暗闇に広がる巨大海底文明ムー連邦と、敵対した末に滅んだアトランティス。エルはその過酷な境界線上を生きる若者だった。
国家の安全保障という重圧。未熟な肩にのしかかる過酷な使命。藤子・F・不二雄が描いたのは、冒険のワクワク感だけではない。国家間の不信感がもたらす悲劇の構造そのものだ。エルはその歪んだ世界線の中で、自らの倫理観を試され続ける象徴的な存在でもあった。