戦後日本の憲法学を確立し、現代の法的思考の基盤を築いた憲法学者・芦部信喜の学説は、この内面領域の保護について極めて明晰な理論を展開している。芦部説によれば、思想・良心の自由は「内面の自由」と「外面化された表現」に分けて整理される。内心に留まる限り、それは絶対無制限に保障されるべきであり、公共の福祉による制限すら受けることはない。
だが、問題は思想が言動や行動として外部に現れたとき、あるいは私人同士の雇用契約関係に入ったときに生じる。芦部理論は、国家権力に対する防壁としての憲法概念を明確にしつつも、現代社会における巨大な私的権力による侵害のリスクを見逃さなかった。内面の自由を侵害する採用調査や踏み込みすぎた労働管理に対して、公序良俗(民法90条)を媒介に憲法精神を及ぼすべきだとする論理は、いま企業法務の現場で重要性を増している。