原田美枝子の名声を世界的なものへと決定づけたのが、世界のクロサワこと黒沢明監督が手がけた1985年の超大作『乱』だ。一文字家を破滅へと導く悪女・楓の方(かえでのかた)を演じた彼女の演技は、世界中の映画人から「劇中で最も恐ろしく、最も美しい」と絶賛された。
着物の裾をなびかせ、刃を突きつけ、男たちを掌上で転がす楓の方。黒沢明という巨匠の厳しい演出要求に真正面から応え、冷徹な復讐心と内に秘めた業(ごう)を全身で体現してみせた。体を張った初期の体当たり演技で培われた度胸と肉体性の美学は、この『乱』における圧倒的な威厳へと見事に昇華されていたのである。