なぜ幸運を祈る言葉として「オオカミの口」が選ばれたのか、そのルーツには主に2つの有力な説が存在します。
第1の説は、中世の狩猟文化と船乗りたちの迷信に由来するものです。当時、森へ入る猟師たちにとって、オオカミは命を脅かす最大の天敵でした。仲間を送り出す際、あえて「オオカミの口(危険の中)へ行け」と口にし、それに対して「オオカミよ、くたばれ(Crepi!)」と応じることで、言葉の魔力によって現実の危険を打ち破ろうとした「反語的魔除け」の儀礼が日常化したと考えられています。
第2の説は、古代ローマ建国神話に基づいています。狼の乳によって育てられた双子の英雄ロムルスとレムスの伝説において、母オオカミは危険が迫ると子どもの首根っこを優しく口にくわえて安全な巣穴へと運びます。つまり「オオカミの口の中」とは、本来は母性による最高の保護と避難所を意味しており、「守られますように」という願いが込められていたという説です。