知恵袋やSNSなどのコミュニティでは、毎年の入学シーズンになると理学部数学科や情報系の新入生から悲痛な声が投稿されます。「大学に入って最初の講義で、教授が黒板一面に記号を書き殴り『1+1=2を証明する』と言い出した」「高校までの計算問題とは別次元の哲学のようで頭が痛い」といったリアルな困惑です。
国内の難関大学数学科で教鞭を執る教授陣のシラバスや講義録を取材すると、大学側が1年次の前期にあえてこのテーマを取り上げる意図は明確です。
「高校までの数学は『用意された公式を使って正解の数値を出す』技術訓練でした。しかし学問としての数学は『自明に見える前提を疑い、どのような論理の鎖で結ばれているかを点検する』知的作法です。1+1=2の証明は、その知的な洗礼として最も強烈で効果的な題材なのです」(都内国立大・数理科学専攻担当教員)
実際、学生が戸惑うのは計算の難しさではなく、「直感を捨てて純粋な形式規則に従う」という思考様式の劇的な転換です。「見たままの現実」を排除し、白紙の上に定められた記号体系のみで論理を紡ぐ作業は、ある種の認知的な苦痛を伴います。しかし、この訓練を経ることで、後の抽象代数学や位相幾何学、ひいては計算機科学の高度な概念を理解するための「抽象化の筋肉」が鍛えられていくのです。