シリーズ完結編である『劇場版 SPEC〜結〜 爻ノ篇』の結末は、劇場公開当時からネット上で激しい議論を巻き起こし、現在でも「難解すぎる」「バッドエンドなのかハッピーエンドなのか」と解釈が分かれています。この結末の真相を理解するためには、当麻紗綾という存在が物語の最後に背負った「業(ごう)」の本質を読み解く必要があります。
完結編において、地球の先住民族の霊(先人類)や冥界の悪霊たちが当麻の左手を通じて現世を滅亡させようとするなか、当麻は世界を救う唯一の手段を選択します。それは、「世界中に蔓延するすべてのSPECホルダーの霊と悪意を、自らの肉体へと取り込み、自らごと虚無の牢獄へ葬る」という壮絶な自己犠牲でした。
当麻は、異形化し暴走しかける自らの体を撃ち殺すよう、唯一信頼する瀬文に懇願します。瀬文は涙を流しながら引き金を引き、当麻の肉体を現世から消滅させました。その結果、世界は時間の巻き戻しとパラレルワールドの再編を受け、SPECホルダーという特異な存在自体が最初から存在しなかった「正常な歴史」へと書き換えられたのです。
当然、書き換えられた世界では、警察組織を含め誰一として「当麻紗綾」という女性刑事を覚えていません。瀬文自身も、世間からは「同僚を射殺した異常者」として獄中に囚われ、激しい暴行を受けます。しかし、ラスト数分で訪れる奇跡——。牢獄の中で天井を見上げる瀬文の前に、漂う当麻の腕が現れ、瀬文はその手首を強く掴み取ります。誰もが当麻を忘れた世界で、瀬文ただ一人だけが当麻の存在と温もりを覚えていることを証明するこのシーンこそ、堤幸彦監督が提示した「極限の愛と信頼の終着点」でした。当麻は肉体を失い時空を彷徨う概念となったものの、瀬文との魂の繋がりによって、決して虚無の中に消滅したわけではなかったのです。