本作の神髄は、著者の幼少期の実体験に基づいた自伝的ノンフィクションという点にある。創作されたフィクションとは異なり、実際に生きた人間の記憶であるからこそ、漂う言葉には嘘がない。落ち着きがないとされ、最初の小学校を退学になってしまったトットちゃんを、小林校長は「君は、本当は、いい子なんだよ」と抱きしめ続けた。
この言葉は、過度な効率主義や標準化が求められる現代の学校教育や社会構造に対して、鋭い問いを突きつける。「普通とは何か」「違いを排除せず包摂するとはどういうことか」。戦争という過酷な時代の波に飲み込まれながらも、トモエ学園で育まれた人間性の種火は、令和の時代を生きる私たちにとっても暗闇を照らすともしびであり続けている。