森泰吉郎氏は1904年(明治37年)、東京市芝区田村町(現在の東京都港区西新橋)の商人・森弁次郎氏の長男として生まれました。生家は江戸時代から続く米穀商・煙草商であり、界隈に複数の土地を所有する地主の家系でした。
東京高等商業学校(現・一橋大学)専攻部を卒業後、研究者の道を志した泰吉郎氏は、京都高等工芸学校(現・京都工芸繊維大学)教授を経て、戦後は横浜市立大学の教授および商学部長を歴任します。専門は流通経済論や物価論であり、学問の世界で確固たる地位を築いていました。
転機となったのは、1959年(昭和34年)の森ビル設立です。関東大震災と東京大空襲で焦土と化した港区一帯の復興を見据え、55歳にして家業の不動産賃貸業を本格的な企業組織へと脱皮させました。学者としての冷静沈着な市場分析と、地元の地主たちと膝を突き合わせて築いた信頼関係が、のちの巨大プロジェクトを支える強固な土台となったのです。