「牛からメタンが出るなら、おならを止めればいいのではないか」といった言説がインターネット上で散見されますが、これは根本的な誤認です。家畜生体から排出されるメタンガスの約90%から95%は口(げっぷ)から放出されており、排泄時のガスはごくわずかに過ぎません。この事実こそが、問題解決を一筋縄ではいかなくさせている最大の要因です。
根本的な牛のげっぷメタン発生理由は、牛が持つ特殊な消化器官の構造にあります。牛をはじめとする反芻動物には4つの胃があり、その第1胃にあたる反芻胃ルーメン発酵の仕組みがメタン生成の舞台です。人間には消化できない硬い牧草のセルロースを栄養に変えるため、ルーメン内部には数十兆単位の微生物が共生しています。これらの微生物が草を分解発酵させる過程で大量の水素が発生し、その余剰水素を古細菌である胃内微生物メタン生成菌抑制が働かない自然な状態では、メタン生成菌が二酸化炭素と結合させてメタンガスへと変換します。
牛にとってメタン生成菌は、胃内の水素濃度を下げて発酵環境を正常に保つための不可欠なパートナーです。しかし副産物として生じたメタンは牛自身のエネルギーにはならず、呼吸やげっぷとともに大気中へと吐き出されます。つまり、草を肉や乳に変えるという牛の驚異的な生命活動そのものが、物理現象として温暖化ガスを排出し続ける構造を抱えているのです。