日本の秋を象徴する樹木として親しまれる楓ですが、まず押さえておきたいのがカエデ属の植物生態です。植物分類学において、かつては「カエデ科カエデ属」とされていましたが、近年の分子系統学に基づくAPG分類体系ではムクロジ科カエデ属(Acer)に再編されています。北半球の温帯地域を中心に世界で約150〜200種が確認されており、そのうち日本には自生種だけで26種が存在する「カエデ王国」でもあります。
一般によく混同される楓と紅葉の違いですが、植物学的な結論を言えば「どちらも同じカエデ属の植物」であり、明確な生物学的境界線はありません。しかし、日本の伝統的な園芸文化や林業現場では、楓の葉の特徴によって明確な呼び分けが行われてきました。
手のひら状に広がる葉の切れ込み(裂片)が深く、指が細く伸びたような形状のものを「モミジ(イロハモミジなど)」と呼び、切れ込みが浅く、カエルの足ひれのように見えるものを「カエデ(イタヤカエデなど)」と呼ぶのが一般的な慣習です。また、北米原産のサトウカエデなどは、早春に幹から採れるメープルシロップ樹液の原料としても世界中で重宝されています。糖度約2〜3%の樹液を40分の1程度まで煮詰めることで、芳醇なシロップへと精製されます。