彼のソングライティングにおいて最高峰と称されるのが、1980年に発表された『昴 -すばる』である。この楽曲の誕生には、今も語り継がれる不思議なエピソードが存在する。自室で引っ越し作業をしていた際、突如として頭の中に降りてきたフレーズとメロディを、吸い込まれるようにノートへ書き留めたという。緑色の光が視界を包むような感覚の中で一気に書き上げられたこの曲は、本人の手を離れ、中国をはじめとするアジア全域で愛唱される不朽の人間讃歌となった。
一方、日本の夏の風物詩として国民に親しまれている『サライ』は、1992年に加山雄三との運命的なコラボレーションから誕生した。テレビ番組の特別企画として、全国の視聴者から寄せられたメッセージを紡ぎ合わせ、わずか24時間の間に制作された。ふるさとへの郷愁と温もりを凝縮したメロディは、世代を超えて日本人の心をつなぐアンセムとして定着した。谷村新司の卓越した言葉選びと加山雄三の伸びやかな旋律が見事に融合した、奇跡的な楽曲制作のドラマであった。