右か左か。あるいは保守か革新か。そうした既成概念によるレッテル貼りをあざ笑うかのように、小林よしのりは常に自己の足場を更新し続けてきた。代表作『ゴーマニズム宣言』で確立されたスタイルは、個人の肉体感覚と主観(ゴーマン)を出発点に置きながら、現代日本の構造的欠陥を暴き出す手法である。
とりわけ注目されるのは、伝統や国家に対する彼固有の解釈だ。彼が論じる国家観は、単なる盲目的愛国主義とは一線を画す。国家を無条件に賛美するのではなく、「個」の自立と公への参画を求める姿勢が底流にある。また、近年の言説で極めて大きな比重を占める『天皇論』においては、皇室の歴史的背景と即位・継承のあり方について鋭い問いを投げかけた。伝統を守るとは何か、真の尊皇とは何かという本質的な議論を展開し、保守派内部にも大きな動揺を与えた。
独自の憲法論に関しても、従来の護憲・改憲という硬直した対立関係を排し、自立した主権国家としてどのような規範を持つべきかという論理を組み立てている。左右のイデオロギーのドグマから脱却し、現実的かつ歴史的な文脈に基づいた論理を展開する点が、その思索の本質に他ならない。