『崖の上のポニョ』における最大の試みは、極限まで簡素化された童謡のような主旋律と、フル編成のオーケストラによる重厚なシンフォニーの融合にある。通常、ハリウッドをはじめとする映画劇伴音楽では、複雑なコード進行や色彩豊かなオーケストレーションを用いて情景や心理描写を補完する。しかし久石譲は、あえて「ドレミ」の基本形に近いメロディを前面に押し出した。
このアプローチは一歩間違えればチープな印象を与えかねないリスクを孕んでいた。それを回避させたのが、緻密に計算されたオーケストレーションの妙である。ダイナミックな管弦楽が背景で躍動することで、主題歌の素朴さが際立ち、同時に映画全体のスケール感を劇的に引き上げることに成功している。子どもが口ずさめる親しみやすさと、クラシック音楽としての気品。相反する要素が見事なバランスで調和しているのだ。