吉兆の創業者・湯木貞一が生み出した「吉兆」の名は、日本の食文化における絶対的なブランドだった。その血脈を引き継ぎ、大阪の目抜き通りに暖簾を掲げたのが船場吉兆である。社長の湯木喜久郎や、その母であり女将として経営の要に座していた湯木佐知子らを中心に、料亭としての高い格調を誇っていた。しかし、その豪奢な佇まいの裏で進行していたのは、あまりにも杜撰で組織的な偽装工作だった。
発覚の引き金となったのは、デパ地下などで販売されていた惣菜や菓子の表示違反だ。賞味期限が切れたプリンやゼリーの伝票を貼り替え、期限を先延ばしにして販売していた疑惑が浮上。これを受けて農林水産省や自治体による調査が入ると、疑惑は惣菜にとどまらず本業である高級料亭の客席にまで広がっていった。九州産牛肉を「但馬牛」と偽り、ブロイラーを「飛騨地鶏」と偽るなど、産地偽装のオンパレード。一流の味覚と信頼を売りにしていた老舗の看板は、偽りのラベル一枚によって呆然とするほどあっけなく崩れ去っていったのである。