室町時代末期から江戸時代初期にかけて数多く制作された「洛中洛外図屏風」は、当時の京都の景観と都市生活の熱気を克明に今に伝える一級の視覚資料です。屏風には金雲の間から寺社や名所、町並みが鳥瞰図として描かれ、身分を問わず数千人もの人物が生き生きと描写されています。
中でも美術史上・歴史上、双璧をなす傑作として知られるのが「上杉本」と「舟木本」です。両者には明確な時代背景と構図の違いが存在します。
狩野永徳が描いた「上杉本」(国宝・米沢市上杉博物館蔵)は、織田信長が上杉謙信へ贈ったとされる名品です。永禄8年(1565年)前後の京都が描かれ、室町幕府十三代将軍・足利義輝の邸宅(旧二条城)や細川邸が威容を誇ります。武家と公家が織りなす伝統的な秩序と、名所旧跡が整然とした格調高い筆致で表現されているのが特徴です。
一方、岩佐又兵衛の筆とされる「舟木本」(国宝・東京国立博物館蔵)は、慶長年間(17世紀初頭)の徳川体制成立期を描いています。豊臣家の象徴である方広寺大仏殿と、徳川家の二条城が対峙するように配置され、四条河原の歓楽街や遊女歌舞伎、市井の人々の生々しいエネルギーが躍動感あふれるタッチで描かれています。時代の主役が武家から庶民の活気へと移行していく転換期の空気を鮮烈に捉えています。