根津甚八さんの原点は、1960年代後半から1970年代にかけて日本を席巻したアングラ演劇の熱狂にあります。日本大学芸術学部を中退後、1969年に劇作家・唐十郎さんが率いる劇団「状況劇場」へ入団しました。紅テントと呼ばれる特設劇場で身体を張った過激な舞台に出演し、看板俳優としてカルト的な人気を獲得します。芸名である「根津甚八」は、真田十勇士のひとりにちなんで唐十郎さんが名付けたものです。
1979年に状況劇場を退団して本格的に映像の世界へ進出すると、その鋭い眼光と影のある佇まいは日本を代表する映画監督たちの目を引きつけました。その筆頭が世界的巨匠・黒澤明監督です。
黒澤監督は1980年の映画『影武者』において、武田信玄の忠臣・土屋宗八郎役に根津さんを抜擢しました。黒澤映画特有の厳しい演出にも怯むことなく、武士の気迫と哀愁を見事に体現。続く1985年の大作『乱』でも次郎正虎役を力演し、国内外の映画賞で高い評価を獲得するなど、日本を代表する実力派スターとしての地位を揺るぎないものにしました。