呼吸器系感染症の猛威を防ぐためには、病原体の感染経路に応じた的確な物理的防御が欠かせません。
インフルエンザとコロナの感染経路は、主に「飛沫感染」「エアロゾル(微小粒子)感染」「接触感染」の3つです。感染者が咳やくしゃみ、会話をした際に放出される粒子を吸い込むことで感染が成立します。特に換気の不十分な密閉空間では、空気中を漂う微小なエアロゾルによる感染リスクが跳ね上がるため、機械換気や定期的な空気の入れ替えが有効な対策となります。
日頃の衛生習慣で注意すべきなのが、手洗いとアルコール消毒の有効性の違いです。ここでもウイルスの「外膜構造」が効果を左右します。
ウイルスには、脂質とタンパク質でできた膜を持つ「エンベロープウイルス」と、膜を持たない「ノンエンベロープウイルス」が存在します。
1. エンベロープを持つ病原体(アルコール消毒が極めて有効):
インフルエンザウイルス、新型コロナウイルス、RSウイルス、多くの細菌(黄色ブドウ球菌や大腸菌など)。これらは脂質の膜がアルコールによって容易に破壊され、感染力を喪失(失活)します。濃度70〜80%前後の消毒用エタノールを擦り込む処置が非常に有効です。
2. エンベロープを持たない病原体(アルコールが効きにくい):
ノロウイルス、ロタウイルス、アデノウイルス、エンテロウイルスなど。硬いタンパク質の殻で守られているため、通常のアルコール消毒だけでは完全に不活化できません。これらに対しては、「石けんと流水による30秒以上の手洗い」で病原体を物理的に洗い流す手法が最も確実です。また、汚染された床や器具の除菌には、アルコールではなく「次亜塩素酸ナトリウム(塩素系漂白剤の希釈液)」を使用する必要があります。