文豪ミゲル・デ・セルバンテスの名作小説をモチーフにしながらも、バレエ舞台の実質的な主役は愛らしい若い恋人たちだ。19世紀後半に巨匠マリウス・プティパが構築した振付は、クラシック・バレエ本来の厳格な美意識をベースにしつつ、明るく弾けるコメディ・バレエの要素をふんだんに取り入れ、時代を超えて世界中で愛されてきた。
作品を彩る作曲家ルートヴィヒ・ミンクスの音楽も傑作だ。スペイン風の情熱的なリズムと親しみやすい旋律が物語を力強くドライブし、観客の心拍数をダイレクトに引き上げる。タンバリンの乾いた音が響き、鮮やかな扇子が風を切る——堅苦しい伝統芸術のイメージを心地よく裏切る開放感こそが、この名作の真骨頂といえる。