インターネット上の解説や動画プラットフォームでは、本作に関して幾つかの誤認が散見されます。それらを正しく整理することは、楽曲の本質に迫る上で欠かせません。
第一の誤解は、「シシリエンヌはもともとフルートのために書かれた」という言説です。現在でこそフルートの代名詞的な名曲ですが、前述の通りフォーレ自身が出版した室内楽版はチェロとピアノのための作品(作品78)であり、フルート版は後年の優れた編曲によるものです。
第二の盲点は、「テンポを揺らしすぎてロマン派風に演奏してしまう」という演奏上の過ちです。チャイコフスキーやラフマニノフのような感情の直接的な爆発とは異なり、フォーレの音楽は「Pudeur(ピュデール=慎み、奥ゆかしさ)」を美徳としています。過度なルバート(テンポを崩すこと)や極端なディミヌエンドは、楽曲が持つ古典的な均整美を損なう要因となります。