「結局、どの焼き加減が一番おいしいのか」という問いに対するプロの結論は、「肉の部位に含まれる筋間脂肪(サシ)と赤身の比率で決まる」というものです。好みの問題以前に、脂質の融点(溶ける温度)と赤身タンパク質の凝固温度の物理的関係が存在するためです。
牛肉の脂身は、人間の体温に近い40℃前後から溶け始め、50〜60℃で最も甘みと香りを放ちます。サシが豊富に入った国産黒毛和牛のサーロインやリブロースをレアで焼いてしまうと、脂が十分に溶けきらず、口の中で脂の塊がギトギトとした重たい脂っこさとして残ってしまいます。したがって、霜降り肉には脂を程よく溶かして赤身と調和させる「ミディアム〜ミディアムウェル」が最も適しています。
対照的に、赤身が主体のヒレ肉(フィレ・シャトーブリアン)やモモ肉(ランプ・イチボ)、輸入牛のグラスフェッドビーフなどは、火を通しすぎると水分が抜けて一気にパサつき硬化します。こうした脂肪が少なく筋線維のきめ細かい部位は、肉汁を最大限に抱え込める「レア〜ミディアムレア」で焼き上げるのが正解です。
肉選びと焼き加減における明確な判断基準を以下に提示します。
- レア〜ミディアムレアがおすすめな人:赤身肉本来の野性味あふれる旨味としっとりした柔らかさを楽しみたい人。ヒレ、ランプ、ミスジなどを選ぶ場合。
- ミディアム〜ミディアムウェルがおすすめな人:和牛サーロインなどサシの強い肉を食べる人。脂のくどさを抑え、香ばしい風味(メイラード反応)とジューシーさを両立させたい人。
- ウェルダンを選ぶべき人・状況:ハンバーグや成型肉を調理する場合。また、小さなお子様、高齢者、妊娠中の方など、免疫機能に配慮が必要な人が同席する場合は、安全を最優先して芯まで確実に火を通す選択が賢明です。