作品をひもとく上で避けて通れないのが、作中に登場する「カート」という名だ。これは言わずもがな、アメリカのロックバンド・ニルヴァーナ(Nirvana)のフロントマンであったカート・コバーン(Kurt Cobain)を指している。1990年代初頭の音楽シーンを席巻し、時代の徒花として去った彼の存在は、楽曲に決定的な影を落としている。
1990年代を象徴するグランジやオルタナティヴ・ロックの虚無感と衝動。恋人が「カートの真似をする」という一節には、青臭い憧れへの愛おしさと同時に、どこか壊れてしまいそうな危うさへの予感が漂う。カート・コバーン自身が抱えていた心身の痛みや苦悩が、恋人の姿とオーバーラップするのだ。単なるサブカルチャーの固有名詞の引用にとどまらず、時代の空気感と自己の死生観を見事に融合させた高度な歌詞世界がここにある。