なぜポケットが削られるのか。最大の理由は、製造コストと「シルエットの維持」という建前だ。サイドシームにポケットを1本追加するだけで、生地の裁断工程が増え、縫製ラインの工数は跳ね上がる。ファストファッションからハイブランドに至るまで、コスト削減の波はまずポケットに押し寄せた。
さらに深刻なのが、巨大ファッションコングロマリットのビジネスモデルだ。世界最大級のラグジュアリーグループLVMHをはじめとする企業にとって、ハンドバッグは極めて利益率の高い主力商品である。服に機能的なポケットを取り付ければ、高価なバッグの需要を損なう恐れがある。映画『プラダを着た悪魔』で描かれたような、見た目の美しさと引き換えに実用性を排除する美学は、同時にバッグを売るための高度なマーケティング戦略でもあったのだ。